「ノー・シャーク」 感想 "サメが映らないサメ映画"の特異点

概要

原題:No Shark

製作:2022年アメリカ

配信:Kill The Lion Films

監督:Cody Clarke

出演:Jules Roscoe/Livvy Shaffery/Nancy Pop


ある種の苦悩を内面に抱えつつも、「サメに食べられる」という夢を叶えるためにニューヨークのビーチを放浪する女性・チェイス。そんな彼女の独白を12話から成るエピソードで綴ったダーク・コメディ。

(↑アマゾン商品紹介より)

予告編

感想





最近はそうでもないですが、一昔前のサメ映画ではサメが出ないのが当たり前でした。と言っても1秒も映らないわけではなく、資料映像が流用されていたり、あるいはわずかばかりのCGやハリボテが言い訳できる程度に映っているのが一般的。



それでも世の好事家は「サメ映画なのにサメが出ねえ!!」などと本気でキレ散らかすこともなく偏執的にサメ映画を愛好し続け、その結果ついに本作のような突然変異的な狂気の塊が飛び出してくるに至ってしまったようです。



まさか「本当にサメが一切映らない」ことを主題としたサメ映画が作られてしまうとは…クソサメ映画マニア歴20ン年の私にとっても完全に想像の埒外でした。思いついても普通作らないよね??



このテーマだけでも唯一無二の存在感ですが、それ以外のところも異常にユニーク。

内容は「サメに喰われたい」という難儀な願望を抱えた女性チェイスが、ビーチに佇みながら全12章・1時間49分もの長時間ひたすら間断なく心の声を独白しまくるというもの。



まず、セリフ(独白)の量が異常に多くて驚かされます。私もこれまでに数千本は映画を観てきましたが、確実に過去最高のセリフ量。1時間49分ずっと早口でしゃべりまくる映画なんて見たことがありません。この狂った脚本を書いたヤツも、全部読み上げた演者も正気じゃないと思いますが、一番苦労したのは字幕翻訳者ではないか。200円のレンタル料じゃ安いよ。



サメに喰われたいならオーストラリアに行ってシャークケージダイビングに参加してケージから飛び出せばいいんじゃないかと思いますが、チェイスは大体NYあたりのサメなんて居そうもないビーチで水着女性の観察に勤しんでいます。それでいてチェイス自身もやたら布面積の少ない水着を着ており、自分自身を世界一美しく面白く魅力的な女性だと考えているナルシスト。サメ映画マニアだが「ジョーズ」は最も卑劣で馬糞以下のサメ映画と考えており、スピルバーグは大嫌い。「ジョーズ4」が大好き。

端的に言うとこの上なく変な奴です。



サメに喰われたいと願いつつビーチの女性を物色している時間の方が長く、水着女子を見つめては「よだれがたまってきた」「私の魅力と面白さで彼女らを虜にするのだ」などと考えており、サメが目的なのか女が目的なのかよくわからなくなってきます。



しかしこれが無意味な尺稼ぎというわけではなく、サイコスリラー的な伏線として機能していることに驚きました。ただのネタ系Z級クソサメ(?)ホームビデオではなかったのです。この尋常じゃない独白量についていけるクソサメ映画マニアもあまり多くはないと思いますが、後半には意外な衝撃的展開も盛り込まれており、観客を楽しませようという意図もちゃんと感じられる良心的な作品です。極めて前衛的な作品だと承知の上であれば、200円というレンタル料を払ったとしても損をしたと思うこともないでしょう。



最後に本作が「サメ映画」というジャンルに入るかどうかの話ですが、私はこれも立派なサメ映画だと考えています。直接サメが映らないにせよ、頭から尾っぽまで「サメ」を意識させる内容はむしろ余白でサメを象った芸術のように感じられます。それに、たとえ画面内にサメがいなくともサメ映画マニアの心の中にはサメが棲みついており、本作はそれを描いた作品と言えるのです。




追記


製作者に「A beautiful review of NO SHARK!」とのお言葉をいただきました。




日本人の感想もしっかりチェックしてるもんなんだなあ…


コメント