「ラストナイト・イン・ソーホー」 感想 上品だけどすごくジャーロしてて良い

概要

原題:Last Night In Soho

製作:2021年イギリス

配給:パルコ

監督:エドガー・ライト

出演:トーマシン・マッケンジー/アニャ・テイラー=ジョイ/マット・スミス/ダイアナ・リグ/リタ・トゥシンハム/テレンス・スタンプ


ファッションの勉強をするため田舎からロンドンに出てきたエロイーズ。彼女には普通の人には見えないものが見える霊感があった。寮になじめず古い家の一室を借りたエロイーズは、そこで1960年代のショービズ界で成り上がろうとする女性サンディの人生を追体験することになる。だがその結末は恐ろしいものであった。


予告編

感想






エドガー・ライト監督最新作。

私はどうもこの監督に苦手意識があるんですよね。もともと15年くらい前に「ショーン・オブ・ザ・デッド」にはドはまりして10回は見たし周囲にも勧めまくっていたほど好きだったんですが、ものすごい期待に胸を膨らませて鑑賞した次作「ホット・ファズ」が全然楽しめなかったのです。あれはもう一体何が面白いのか理解不能なほど面白くなかった。それなのに映画ファンの間では超高評価で大絶賛の嵐。あれほど世間との心理的断絶を感じたこともなかなかないですよ。なので結局この監督とは波長が合わないんだな…と考えるしかなく、それ以後はどんなに話題になろうが完全にスルーしてきました。



で、なぜ今回は観に行く気になったかというと、たまたま見かけたポスターに私の好きなダリオ・アルジェント的ジャーロに極めて近い趣きを感じたからです。そういう作品は誰であろうと見逃せません。



導入は概要に書いた通りですが、超能力が発端で事件に巻き込まれることや、毒々しい色彩、殺人の見せ方、変なところで雑なサスペンス展開など確かにかなりアルジェントっぽくて素晴らしい。しかし一番アルジェントくさかったのは殺人犯が判明した瞬間の「ええ~…あんたなの…?」感かも。あとデパルマ的なノリも感じます。



主人公エロイーズがファッションデザイナー志望だったり、彼女が見る幻影が60年代の夜のショウビズ界で成り上がろうとする美女だったりと華やかでシャレオツな世界を豪華絢爛に描いており、そういうのと全く無縁の田舎者である私は圧倒されるばかりでしたが、たまにはこういうのも悪くない。監督だけでなくアニャテイラージョイにも「クイーンズ・ギャンビット」が楽しめなかったことで苦手意識を持ってたんですが、本作の彼女は無茶苦茶カッコイイですね。それでいてもう一人の方も全然負けていません。しかし華やかなりし60年代ロンドンと言ってもそれは表向きの話で、裏では薄汚い男どものゲスな欲望が渦巻く最悪な世界であり、そのせいでとんでもない惨劇が起こってしまう。




以下ややネタバレあり




ショウビズ界やら芸能界やらでは女性の性的搾取が蔓延っているのだという話。まあそっちの業界はどこもそんなもんだろうなと何となく想像はついてるものの、こうして映画でじっくり見せられると相当胸糞悪いです。男どもからの性的な視線が実に気持ち悪く描かれている。そっち系の業界のお偉方はみんな去勢することを義務付けるべきではないかと思いました。



…しかし、そんなこと言ったらダリオ・アルジェント作品も女性をイジメて喜んでいるような悪趣味さがあるわけで、それもまた性的搾取の一種のような気がしないでもない。しかもアルジェントの場合は自分の娘でも嬉々としてそれをやってたわけで。まあアルジェントは狂っているからこそ面白いので、彼からそういう衝動を奪ったらぬるい作品しか撮れなくなることは間違いないでしょう。そう考えると本作のこのテーマはとても深いような気がしてきます。



それはそれとして、本作は色々な要素がジャーロ風味とはいえかなりお上品だった印象。別に血に飢えた殺人鬼が出てくるわけじゃないから、意外と殺人シーンも少なくホラーとしては物足りなさが否めない。亡霊を使って恐怖を煽る演出は巧くてたびたびビビらせてくれるものの、サスペンスとしてのツイストによって恐怖の矛先が逸らされ、終わってみれば大して怖がる要素もなかったかなと。その辺はやや不完全燃焼気味でしたが、おおむね楽しめたので監督に対する苦手意識はだいぶ薄れました。エドガー・ライト監督の次回作は「バトルランナー」のリメイクだそうですが、そっちにも素直に期待が持てるようになりましたね。



ちなみに変な所で雑だなと思ったのは、エロイーズのイヤミなルームメイトがいかにも何かやりそうで結局何もしないどうでもいい奴だったこととか(寮から追い出したかっただけ?)、そいつに対する殺人未遂が完全スルーされた件とか、思わせぶりにミスリードしてくれた老人が別に大した役割を持っていなかったあたりですね。まあ私が分かっていないだけで彼らにも何か重要な意味があったのかもしれませんが、本作は尺が118分とかなり長く、飽きはしなかったものの最後の方ではもう尻が痛くてたまらなかったので無駄は省いて100分前後にしてくれたらもっと良かったなと思いました。


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