「ホール・イン・ザ・グラウンド」 感想(ネタバレあり) チェンジリングか、精神病か

概要

原題:The Hole in the Ground
製作:2019年アイルランド
発売:プレシディオ
監督:リー・クローニン
出演:サーナ・カーズレイク/ジェームズ・クイン・マーキー/シモーヌ・カービー

シングルマザーのサラは、幼い息子クリスを連れてアイルランドの田舎町に移住してくる。クリスは次第に不審な行動を取るようになり、サラは息子が何かに取り憑かれているのではないかと考え始める。家の裏手に広がる森にできた巨大な穴に、その謎が隠されているのではないかと疑うサラだったが……。

(↑プレシディオ公式HPより)

予告編



感想


夫と離婚し、幼い息子クリスと森の一軒家に越してきたサラ。ある日、森の中に巨大な穴ぼこを発見。それからクリスの行動に不審な点が目立ち始め、サラは息子が森の妖精に取り換えっ子(チェンジリング)されてしまったのではないかという疑念に囚われる。


アイルランドのめちゃくちゃ陰鬱な雰囲気ホラー。
画面も話もとにかく暗い。


この映画、表面上は「息子が何者かと入れ替わっているかも」という母親の恐怖心を描いたホラーなんですが、それと同時に「母親の方が精神病で息子を正しく認識できていないのかも」という可能性も示唆してきます。精神科医にかかって薬も飲んでますしね。


森の妖精に取り換えられたらしいニセクリスは、キライだったはずの粉チーズや蜘蛛をムシャムシャ食べたり、怪力でテーブルをぶっ飛ばしたりするんですが、これが現実なのかと言えばやはりそうは感じられない。サラもそれを警察に言ったりはしないし、身近な人や精神科医に相談しては引かれているので、やはり森の妖精など存在せずサラの精神に異常があったのではないかと思います。


とはいえそこにいまいち確信を持てないまま、森の穴の中でクリーチャーに追われる「ディセント」っぽいクライマックスに突入してしまうのですが、ここだけ見るとやっぱり森の妖精のせいだったのか?という気もしてきます。どちらでも受け取れる作りにしたかったのか、それともあくまでサラの脳内で起こっている出来事なのか。


ラストで鏡が大量にある部屋にいるサラは何らかの精神的治療を受けているように見えます。やはりあの一連の出来事は幻覚であったとしか思えない。しかし、それがどういった病気か知らないのでこの映画が何を表現しようとしていたのかも結局よく分からずじまいでした。


が、それで終わらすのももったいないので一応調べてみましたところ、あれは「カプグラ症候群」という精神疾患で、家族や友人が詐称者に置き換えられたと錯覚するものなんだそうです。そのまんまですね。大きな鏡を見せると自分自身も偽物のように感じたりするため、治療には小さな鏡が用いられるとか。原因は頭部の外傷であることが多いとのこと。サラには元夫に殴られたと思しき額の傷があったのでそれが原因っぽいですね。

となると、ラストで映っていた息子の顔はやはり別人で、本物のクリスは嘆き悲しみながら燃やされてしまったのだ…ということになってしまいます。実におぞましい、厭すぎる話です。最強クラスの鬱エンドですよこれは。しかし肝心の「カプグラ症候群」についての知識が無い人が観ても何のこっちゃと言う感じになってしまいますね。実際に詐称者と思い込んだあげく殺害にまで至る病なのかどうか、その辺も気になるところではありますが。


チェンジリングの伝承と見せかけてカプグラ症候群だった。
心理ホラーとしてかなりの傑作だったのではないかと思います。




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