『カフカ 「変身」』 感想 これは他人事ではない

概要

原題: FRANZ KAFKA'S Metamorphosis

製作:2019年イギリス

発売:コンマビジョン

監督:クリス・スワントン

出演:エイリーク・バー/モーリーン・リップマン/ロバート・パフ/ローラ・リース/アリスター・ペトリ/クロエ・ホウマン/ジャネット・ハンフリー


父親の借金を返すため、家族のために働いていたグレゴール。彼はある朝目を覚ますと自分が巨大な毒虫と化したことに気が付く。もう働くことも出来ず、家族に疎まれながら世話をされ残飯を食べ、ただ生存しているだけの日々に、グレゴールは生きる気力を失くしていく…。


予告編

感想




なぜかコンマビジョンから発売された、誰もが知ってるあの超有名文学作品を真面目に映像化した作品。本当になぜコンマビジョンが買い付けてきたのか謎。コンマどころか教育テレビで放送してそうな映画なんですが。バケモノが出てれば何でもいいってことかな?



なお、今回も「アマプラゴミ映画沼で悶絶している河童」ことJetさんにご要望いただきました。いつもありがとうございます。



ちなみに私は「変身」を小学生の頃、読書感想文のために読もうとしたことがあります。薄くて楽そうだったからね。が、ガキンチョにこんな話を理解できるはずもなく、冒頭数ページで諦めたような苦い記憶。まあ、だからと言って私がカフカを全く読んだことがないかというとそうでもなく、去年何気なく立ち寄った本屋で見つけた「絶望名人カフカの人生論」は実に素晴らしい名著でした。ネガティブ思考もここまで極めれば一芸になるのだと感動させられたし、自分より圧倒的にネガティブな人がいてしかも後世では偉人扱いされているという事実には何だか安心させられます。その中でも、最も共感できる彼の言葉はこれです。


ぼくが仕事を辞められずにいるうちは、

本当の自分というものがまったく失われている。

それがぼくにはいやというほどよくわかる。

仕事をしているぼくはまるで、

溺れないように、できるだけ頭を高くあげたままにしているようだ。

それはなんとむずかしいことだろう。

なんと力が奪われていくことだろう。

(絶望名人カフカの人生論 新潮文庫版128Pより)






…で、これを踏まえて「変身」についての感想。これは小学生の時からですが、まず主人公の名前が「グレゴール・ザムザ」なのでビジュアル的には完全にザザムシみたいなやつをイメージしていました。が、この映画だとカメムシとかゾウムシにゴキブリを混ぜてキモくしたような外見でしたね。目だけは昆虫らしさが皆無の可愛らしいデフォルメがされていてかなりの違和感。キモければ何でもいいんか。ハエ男風のジャケ絵と似ても似つかないのはさすがのコンマ・クオリティ。



内容的には、過酷なサラリーマン生活でメンタルを破壊されたグレゴールが、出社拒否からの引きこもり生活に陥ったのを「毒虫に変身した」というメタファーを用いて描いた家族ドラマであると受け取りました。上で引用したカフカの言葉を考えると、もうほとんどグレゴール=カフカとしか思えない。こんなん小学生が読もうとしたところで絶対に無駄ですね。実際にストレスフルなサラリーマン生活で精神が破壊されかけている今の私にこそ、ぶっ刺さる作品です。



だからこのグレゴールの状況は非常によくわかるというか全く持って他人事ではない。労働意欲を失ってメンタル崩壊し、部屋から出る元気もないグレゴール。私も近い将来毒虫になってもおかしくないんですから。ただ1点大きく違うのは、私が一人暮らしであるのに対し、グレゴールは両親と妹と同居しているということ。両親と妹は「引きこもりと化した厄介な長男」を抱えて苦しむことになる。この作品の舞台は100年以上前のドイツなのに、日本の現代社会ともダイレクトに通じる問題を扱っていることに驚かされます。



この作品のメッセージは「嫌な労働は人のメンタルを壊す」であると思いました。グレゴール(=カフカ)もそうだし、毒虫と化したグレゴールの世話をするお手伝いさんは逃げ出しちゃうし、逃げ出すことも出来ない家族は次第に壊れかけていきます。まあ最後にはグレゴールが衰弱死してしまうので家族は救われるのですが、もちろん後味は良くない。グレゴールが家族に煙たがられ、生きる気力を失くして衰弱死に至る過程はただ悲惨の一言で、私自身も似たような末路を辿りそうな物悲しい予感に囚われてしまいました。私の場合は一人暮らしなので一人で勝手に孤独死することになるかとは思いますがね。そうなった後にこのブログが評価されて後世の人々に読み継がれればカフカルートですが、そんなわけないのがよけい悲しいところです。


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