「ブラック・ボックス」 感想(ネタバレあり) 人間の自我の根源とは何か

概要

原題:BLACK BOX

製作:2020年アメリカ

発売:アマゾンプライムビデオ

監督:エマニュエル・オセイ=クフォーJr

出演:マムドゥ・アチー/フィリシア・ラシャド/アマンダ・クリスティン


交通事故で妻を亡くし、記憶障害を患ったノーラン。治療しながら幼い一人娘の面倒を見ていたが、記憶の具合は芳しくなかった。そこでブラック・ボックスという最先端の医療機器を用いた治療を試みる。それは使用者の記憶を仮想現実として疑似体験できるというものだった。だがノーランは仮想現実の中で相貌失認に陥り、謎の男に襲われ、自分が何者なのかも分からなくなっていく。


予告編

感想



アマゾンスタジオとブラムハウス製作、プライムビデオ配信のSFサスペンスホラー映画。

ゾンプラオリジナル映画と言えばなんかイマイチ…というイメージがないこともないが、本作はかなりの良作でした。


事故で記憶障害を患ったノーランは「ブラック・ボックス」という機器を使った実験的医療を受ける。それは脳波から過去の重要な記憶を仮想現実として呼び出し、疑似体験することで記憶の回復を試みるというもの。しかしノーランは仮想現実中で人の顔が認識できず、さらに不気味な男に襲われてしまう。


まずこの「ブラック・ボックス」という装置はSFだとしてもちょっと安易というか、すごく簡単に言ってるけどそんなこと出来ちゃっていいのかよ…と多少鼻白むところがないでもないです。

しかしそれさえ許容してしまえば、自分の記憶を体験しているのになぜか関節バキバキのブリッジ男に襲われるという謎めいたサスペンスホラー展開、そこからの「自我」とは何に宿るものなのか?という根源的な問い、そしてあまりにもめんどくさすぎる…いや、不条理で残酷な真実を知った主人公が取りうる選択とは?…と、二転三転するストーリーにどんどん引き込まれていきます。


ネタバレなしで言えるのはこれくらいが限界なので、本作に興味がわいた人は観てみることをオススメします。





以下ネタバレ





ノーランの自我は実はノーランのものではなく、トーマスという別人格だった。それ自体はわりとよくある展開ではあるものの、失業しながらも幼い娘を世話する現実とブラック・ボックスでの仮想現実を行き来する中で判明していくくだりは充分衝撃的に映ります。


ただ、そのために「トーマスの脳波データをコピーして保存しておき、脳死したノーランにアップロードした」というのはかなりのオーバーテクノロジーに感じますね。たった一人の医者が独自に開発した装置なわけだし。マッドサイエンティストってレベルじゃないですよ。その気になればいくらでもトーマスを量産できそう。


また、ノーランは脳が損傷したから脳死状態になったのであって、そこに他人の記憶を流し込んだからといって脳死から回復するってのもおかしな話です。まあこの辺のディテールは気にしちゃいけないところかもしれませんが。


まあつまり人間の自我とは脳波データ、記憶によって形作られるものだというわけですね。序盤はノーランの自我とトーマスの記憶を持ったような混合的人格だったのが、ブラック・ボックスの治療によって限りなくトーマスに近くなったと。実にややこしい。自分が同じ境遇になったら耐えられる気がしません。


脳死したからって、体をいいように乗っ取られてしまったノーラン。しかしノーランには幼い娘がおり、トーマスにも妻子がいる。トーマスがトーマスとして生きていくためには、ノーランの娘を見捨てなければならない。


一体どちらとして生きていけばいいのか?

その辺の葛藤を描くヒューマンドラマになるのかな…と思ったら、トーマスは実はとんでもないDV夫で迷うことなく自分の妻子とやり直そうとする。

が、思いっきり拒絶されてしまう。

伏線は充分張ってありましたが、それでもこの展開は驚きましたね。


トーマスはいくら腐れDV夫とはいえ、別人の体で復活させられたうえに脳内でノーランの自我と戦わなくちゃならないなんてひどく悲惨な境遇です。最後の選択を見るに、心底悪い奴でもなかったようだし。そのうえ脳波データをコピーされているので今後も何度も復活させられそう。


人間の自我とは脳波、記憶が全てなのか?

そんなことを考えさせられる作品でした。


コメント

匿名 さんのコメント…
ようやく脳が脳を解明する絶対的探偵小説、ドグラマグラ(大正年間)に米国もちかずいてきたようだね。
岩石入道 さんの投稿…
チャカポコチャカポコ