「ストレイ 悲しみの化身」 感想 やるせなさの化身

概要

原題:Tvar
製作:2019年ロシア
発売:インターフィルム
監督:オルガ・ゴルデツカヤ
出演:エレナ・リャドワ/ヴラディミール・ヴドヴィチェンコフ/セバスチャン・ブガーエフ/イェン・ラノフ/エフゲニー・ツィガノフ/ローザ・カイルリーナ

幼い一人息子を失ったイゴール夫妻。数年後、養子を迎えるために孤児院を訪ねると、栄養失調で獣じみた振る舞いをする子供と出会う。妻ポリーナは夫や周囲の反対を押し切ってその子を引き取り、息子と同じ「ヴァーニャ」と名付け溺愛する。夫イゴールも徐々にヴァーニャを愛するようになっていくが、彼は時折非常に暴力的になることがあった。そしてポリーナの妊娠が分かった時、ヴァーニャの母を見る目が変わり始める。

予告編



感想


子供を失った夫婦の悲しみに入り込む怪物を描いたロシア産の鬱ホラー。
ここのところ月イチくらいでロシアンホラーを観ているんですが、どれも同じ監督が撮ったんじゃないかと思えるほど似たような雰囲気に感じます。映像は綺麗だけど、内容は暗く冷たく陰湿で陰鬱。同じ映画学校で同じ授業を受けて育った優等生たちがそれぞれ同じような手法でホラーを撮ってるんじゃないかという気がしてきました。



本作はその子供を失った夫婦が、変な孤児を引き取ったらえらい目に…
という、ちょっと「エスター」を彷彿とさせる話。
しかし一見まともだったエスターとは違い、本作で引き取った孤児ヴァーニャは見るからに様子がおかしい。顔色が異常に悪いし、獣に育てられたかのような振る舞いです。

そんなゾンビ野生児、普通引き取りたくないだろ…と思うんですが、妻のポリーナはなぜかひと目で気に入り、嫌がる夫イゴールを完全無視して強引に引き取ってしまいます。この辺のポリーナの振る舞いは控えめに言っても最悪です。そりゃ子供を失った悲しみなんて独身の私には理解し切れない話ですが、それにしてもあれはない。

ポリーナがそんなだからイゴールは諦めてヴァーニャを養子と認めて、徐々に我が子のように愛するようになっていくのですが、まるでペットセマタリーに埋めて生き返らせた後のようなヴァーニャの様子には猛烈な禍々しさしか感じられません。本人たちは幸せだからいいかもしれませんが、いきなり他の子供にジャンピング噛み付きをかましたシーンには驚きました。あれでも必死で擁護してしまうあたり、イゴール夫妻は何らかの暗示にかけられているのでは…と考えられるところですが。


しかしポリーナが妊娠すると、母の愛を独占できなくなったヴァーニャは露骨に害意を示し出します。と言っても買い物カートをぶつけようとしたり、エコー写真を破いたりしただけではあるんですが。それだけで一転、あれほどヴァーニャを溺愛していたポリーナはクルリと手の平を返し、ヴァーニャに罵声を浴びせて即刻追い出しにかかります。またしてもイゴールに何の相談もなく。これは本当にひどい。色んな事情や仕掛けがあるにせよ、手の平返しのスピード感がありすぎてさすがに同情する気も失せます。

本当にかわいそうなのは夫イゴールの方で、すっかりヴァーニャを本当の息子のように愛するようになっていたのにいきなり発狂した妻に追い出されている。彼にはあらゆる意味で救いがなく、観ていてひたすら陰鬱な気分になってきます。


こんなホラーでは特に盛り上がるクライマックスや意外なオチが用意されているはずもなく、本当にどんよりとした空気のまま何の救いも無く終わってしまい、やるせなさだけが残りました。

まあ、本当のヴァーニャの行方とか偽ヴァーニャの正体などはきちんと明かされるのでそんなにモヤモヤ感は残りませんでしたが。
もうちょっと明るく楽しいロシア産ホラーはないものかなあ…と思いました。
ホラーじゃないのを観ろよと言われればそれまでですが。

コメント