「トラフィッカー 運び屋の女」 感想 転落するサイコパスの狂気

概要

原題:Vargur
政策:2018年アイスランド
発売:ミッドシップ
監督:ボクァ・シグソーソン
出演:アンナ・プロクニャック/ギスリ・オルン・ガーダルソン/バルタザール・ブレキ・サンペール/マリヤナ・ヤンコビッチ

事務所の金を使い込んでしまった悪徳弁護士エリックは、刑務所から出たばかりの弟アトリと麻薬密輸ビジネスに手を出す。しかし、運び屋に雇ったシングルマザーのソフィアが体内に隠した麻薬をどうしても吐き出せず、足止めを食っている間に捜査の手が迫る。

予告編



感想

アイスランド製のクライムサスペンス。アイスランド映画と言えばこの前見た隣の影がかなり良かったのですが、本作もクオリティは非常に高いです。今、アイスランド映画が熱い。

しかし私はアイスランドのことを今までほとんど知らなかったんですが、人口はたったの35万人しかいない国なんですね。旭川市と大して変わらん規模じゃないか。それでこんなクオリティの高い映画を連発しているのも驚きです。

我が北海道、特に札幌圏以外ではこの先人口が加速度的に減っていき、著しい過疎化の進行が危惧されているわけですが、似たような大きさの寒い島にわずか35万人で成り立っている国家もあるかと思うと妙な気分ですね。そのうえアイスランドは幸福度も世界最高クラスだし、年間6週間のまとまった長期休暇を取れるし、国民の大半がトライリンガルらしいし、何だかとても素晴らしい国のように思えます。

しかし、「隣の影」も本作も恐ろしく冷徹に人間の悪辣さ、醜さをこれでもかとえぐり出しており、監督は人間が死ぬほど嫌いなんじゃないかと思わせる寒々しさに満ちています。景色もドンヨリしてるしあんまり幸福そうな国には見えない。


内容は、人のカネを使い込んだ弁護士エリックがそれを補てんするために弟アトリと麻薬密輸に手を染めるが、全然うまくいかなくてゲンナリという話。弟はまだ人情味もある小悪党だが、兄貴の悪辣さは心底救いがたい。

運び屋の女ソフィアが小さくラッピングされた麻薬を飲み込んで空港をすり抜けるんですが、いざ吐き出そうとしても全然出てこない。しかも飛行機で耐えきれずに3つだけ吐いてしまい、そのうち1つをうっかり落っことしていたのでそれを手がかりに刑事が追ってくる。

そのいかつい敏腕女刑事がガシガシ追い詰めてくるスリルは一応あるものの、エリックに「捕まってほしくないなあ」と思わせる要素が一ミリも無いのであまりエキサイティングには感じませんでした。もう序盤の時点でエリックとアトリ兄弟はすでに詰んでる感が半端ない。どう見ても投了すべき状況なのに、なりふり構わず逃げ回り駒を一方的に取られ続けている将棋のような見苦しさが延々と続くんです。それをひたすら淡々と冷徹に映し続ける独特の雰囲気。「隣の影」といい、こういうのがアイスランドらしさなのか。

そして終盤、いよいよ追い詰められたエリックが驚きの行動に。そこまでしてカネが欲しいか。「最後までやるしかないだろ」このセリフのインパクトときたら…。そして結末はものすごく後味が悪いです。なぜソフィアはあんな酷い目に遭っても何も言わなかったのか。背後には巨大な組織の影が…というわけでもなさそうだったし。それとも、まだあの仕事を続けるつもりでいたからなのか。もしくはヘマをした責任を感じていたのか。何にせよ、考えれば考えるほど陰鬱な気分になる結末でした。





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