「スペルズ/呪文」 感想  痩せゆく女

概要

原題:QUEEN OF SPADES:THROUGH THE LOOKING GLASS
製作:2019年ロシア
発売:インターフィルム
監督:アレキサンダー・ドモガロフ・Jr
出演:アンジェリーナ・ストゥレチーナ/ダニイル・ムラヴィエフ・イゾトフ/ウラジスラフ・コノプレフ/アナスタシア・タリジナ/ウラジーミル・カヌヒン

母親を事故で失い、全寮制の学校で暮らすことになった姉オルガと弟アルチョム。ある日、オルガは友人たちと黒魔術に使われた古い鏡を見つけ、面白半分で危険なまじないを試してしまう。

予告編



感想


相変わらず時代遅れの感が強いロシア産のオカルトホラー。映像は非常に綺麗で良いんですが、頭から尾っぽまでジットリと陰鬱かつ緩慢な雰囲気で、抑揚とか覇気が全くありません。ロシアンホラーはどうしてこう一様に深刻で重苦しすぎるものばかりなのか。お国柄と言ってしまえばそれまでですが、ことが起こる前の日常はもう少し呑気にしててもいいと思うんですが。


舞台となる全寮制の学校はかなり歴史ある建築物のようで美術的にも価値が高そうな威容を感じさせるんですが、住むとなるとあの陰鬱さはちょっと耐えられそうにない。学校と言うよりまるで戦時中の強制収容所のようです。

その地下室では過去に陰惨な事件があり、アホな学生たちが悪ノリして呪われてしまうという話。

まあアホと言ってもあんなとこでそれなりに規律を乱さず暮らしている時点でアメリカ人に比べたら恐ろしくマジメで物静かな奴らです。こういうところに旧ソ連の社会主義体制的な抑圧感から未だに解放され切っていないロシア人の悲哀が感じられるような気がしないでもない。


で、その呪いは本人の願い事を歪んだ解釈で叶えてくれる…という形でもって降りかかってくるのですが、見どころは抑えきれない食欲に悩むふくよかな女子生徒ソニアです。彼女は「食欲が失せますように」などと願ったばかりに、食い物が虫に見えるようになってしまう。そのせいで何かとウジ虫が湧いてくるので、寄宿舎の怪しい雰囲気と合わさって「サスペリア」を彷彿とさせてくれます。


このソニアが主人公であれば、デブがじわじわと痩せて苦しむキングの「痩せゆく男」の女版のような楽しさがありそうだったんですが、残念ながら彼女は脇役にすぎないのでそうもいきません。どこまでもステレオタイプなロシアンホラーである本作の中で唯一ユニークな点だっただけに惜しい。とはいえ死に様はなかなかインパクトがあって良かったです。チョコが何になったのかよくわからなかったけど。カミソリ?


それに対して主役のオルガとアルチョム姉弟は事情があるとはいえ反抗的でヒネくれていてイラつくお子様方なので全然好感が持てないのが困る。なので、あの身もふたもないエンディングも予想外ではありましたが特に響きませんでした。

まあでも黒人魚とかよりは全然面白いし、ロシアンホラーとしてはそこそこいけてる方かなと思います。


あと、公式サイトの紹介文が妙にハイテンションで面白いので興味ある人はご覧になってみてはいかがでしょうか。


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