「ザ・インプロバイザー(The Improviser)」 感想 才能は残酷

概要

原題:The Improviser

製作:2022年アメリカ

配信:日本ではなし(Youtubeで視聴可)

監督:ダニエル・フロリオ/クリス・シャッコ

出演:アンソニー・ジョルダーノ/ザック・ガーナー/ジョイ・シャッツ/ポール・ヴァレンティ/マロリー・ブライアント/タビサ・ビアドゥリ/ランドール・マクニール/ビル・コイン


スタンダップ・コメディの世界で有名になりたいと願う青年ブレット・シュガーマン。彼は即興劇団ギグリパフの一員であり、NYのコメディ劇場でハウス・チームとしての地位を得ようと活動していた。だが、ブレットにはコメディアンの才能がなかったのだ。あまりにも無残な失敗を繰り返した彼は精神に異常をきたし、ついには恐ろしい事態を起こしてしまう。


本編


↑youtubeにて無料で本編を観ることが出来ます。

こういうのって合法なのかいまいちよく分かってなかったんですが、ちゃんと配給側からライセンスを受けた動画とのことです。

感想



監督・脚本Daniel Florio氏によるスタンダップコメディの世界を舞台にしたサイコ・スリラー。

今のところ日本では配信も何もされていません。


ではなぜ本作を観たのかというと、Daniel Florio氏が問い合わせフォームから「俺の初めての長編映画を観てくれないか?」とメッセージを送ってくれたからです。



今まで私の感想記事に反応をくれた外国の監督は何人かいましたが、今回のような要望は初めてのケース。外国でもこういう宣伝活動に励んでいる人がいるとは思いませんでした。自動翻訳が発達したおかげで、ネット上では言葉の壁などもはやないも同然ですね。



そうは言っても、私のブログはそれほどページビューが多いわけではありません。が、日ごろから超低予算のインディーズ映画について頻繁に感想を書いているブログは他にあまりないので、そういったものに興味がある読者は多い方かもしれません。



今回はyoutubeの自動翻訳字幕を使って鑑賞したので理解できていない台詞も多々ありますが、大まかな流れは分かりやすい内容だったので、頑張って感想記事を書いてみます。今回は作り手にも読まれるので、いつになく緊張感が漂っています。



では、作品について。


結論から言うと、お世辞ではなく非常に面白い作品でした。別に気を使っているわけではなく、本当にですよ。もしつまらなかったらどうしよう…?とビクビクしながら観てみたら、普通に良い出来で驚きながら安堵したくらいですから。



もちろん製作費はほとんどかかっていないので音と映像はとても安っぽいのですが、脚本・演出・演技・編集とどれもレベルが高く、何より溢れんばかりの情熱を感じます。これだけ気合の入ったインディーズ映画はめったにないと言えるでしょう。



あらすじは上の概要欄に記した通りですが、まず日本人には全く馴染みのないスタンダップ・コメディ業界の描写が興味を惹きます。例えばブレットがNYの大舞台に上がるためにオーディションを受ける場面。くじ引きで知らないコメディアンと急造コンビを組まされ、即興で芸を披露しなければならない。さらにその場でお題が出されるので、本当に何もかも即興でやらねばならないのです。これは厳しい。しかもブレットに出されたテーマは「ピクルス」ときた。どんなお笑いマスターでも急に「じゃあお題はピクルスでよろしく~」なんて振られても困るでしょう。この条件で人を笑わせるパフォーマンスを披露できるのか? 私の目にはあまりにも困難なミッションのように映ります。



スタンダップ・コメディアンとはよっぽど頭の回転が早くないと務まらないものらしい。それでも、ブレットは精一杯頑張っていたように見えます。即興コメディのクラスを受講したり、ポッドキャストで日々発信してみたり。しかしそれも才能のない者の痛々しい空回りでしかないのが悲しい。ブレットの芸はむしろ人を不快にさせてしまう類のもので、彼がいくら努力しようとも観客には罵声を浴びせられ、仲間には拒絶されてしまう。



その一方で、サメの着ぐるみを着て活動するコメディアン・グレッグは順調に人気を高めていく。やはり時代はサメなのか。サメ映画ブームは日本だけのことではなかったのか。

そんな人気者のサメ野郎グレッグにあやかろうと、なりふり構わず接近するブレット。そこはストーカーもののサスペンスのようなスリルがあります。彼らの距離が近づくにつれ、緊張感がどんどん高まっていき、ついには…。



ブレットがこの業界で悪戦苦闘する描写を非常に丁寧に積み上げており、クライマックスで彼が崩壊する展開にも充分な説得力があります。



そもそもこの手の超低予算インディーズ映画では、本作のようにしっかり緩急がついてたり、クライマックスの見せ場を用意してくれている作品はほとんどないのです。そういう意味でちゃんと娯楽性を盛り込んである本作はとても稀有な存在と言えます。低予算インディーズ映画に理解のある方、スタンダップコメディの世界に興味のある方はぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。あるいはトランスワールドアソシエイツさんあたりがアマゾンプライムで配信してくれたらいいなあと思います。



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