「ミック・テイラー 史上最強の追跡者」 感想(ネタバレあり) 残酷なオーストラリアの歴史

概要

原題:Wolf Creek2

製作:2013年オーストラリア

発売:東映ビデオ

監督:グレッグ・マクリーン

出演:ジョン・ジャラット/ライアン・コール/シャノン・アシュリン


オーストラリアの荒野に住むブタ撃ちの男ミック・テイラーは、気に入らない警官やら観光客やらを捕まえてはいたぶり殺すスーパーサイコキラーだった。その日はドイツからのバックパッカーを追っかけていたがイギリス人旅行者のポールに邪魔をされ、怒り心頭のミックはポールをどこまでも追いつめていく。


予告編

感想



2013年のオーストラリア製スプラッターサイコホラー。

実話を元にしているとか何とか。ホントかよ。

原題が「WOLF CREEK 2」ということでこれは2作目のようなんですが、ストーリーは無きに等しい。オーストラリアの広大な荒野を舞台に、ただただサイコでクレイジーなオッサンが哀れな旅行者を面白半分にいたぶって殺しまくるだけです。何て悪趣味な映画なんでしょうか。ただそういう事件が実際にあったにせよ、この映画で描かれたような犯行だったとは思えないんですがね。まあ別にフィクションでもいいけど…というかむしろフィクションであってほしい内容。



で、この手の殺人鬼ホラーとしては主役のミック・テイラーのキャラクターがなかなか個性的で良いです。普通殺人鬼というものは無言であるかしゃべっても口数は少ないもんですが、ミックはその辺にいくらでもいそうなごつい農家のオッサンといった風貌なうえにペラペラとよくしゃべるし、ゲハガハとよく笑います。そう人相も悪くなく、人が良さそうにさえ見えてしまう。



しかし、やることは極めてえげつない。レザーフェイス並かそれ以上の危険人物です。なんか知らんけど外国人を敵視しており、バックパッカーを見かけようものなら因縁をつけては蹂躙してしまう。ナイフを刺してグリッとえぐり込む描写が残酷でたまらない。やった後の解体シーンのムゴさはこの手の映画の中でもひときわ生理的嫌悪感を催す出来栄え。目をそらさずにはおれません。しかし軽口を叩きながら途方もなくエグイことをする、ってのはホラー映画的には面白い。



本作ではミックは主にイギリス人旅行者のポールを延々と追い掛け回してはいたぶるんですが、その中で大型トレーラーとジープでのド派手なカーチェイスが盛り込まれています。「激突!」を思わせるシーンですが、オーストラリアなのでカンガルーの群れがそれに巻き込まれてしまうのがなんだか悲惨でもあるがユーモラスでもあり印象深い。あんなだだっ広い荒野でわざわざ走ってるトラックに近づいてボコボコはねられるなんて、カンガルーってそんなにマヌケな動物なんですかね。ここはホラー映画らしからぬ奇怪な場面でした。



で、必死の逃走もむなしくミックに捕らわれてしまったポール。イスに縛り付けられてさぞかしエグイ拷問でもされるのかと思いきや、一見普通のオッサンだけあってポールの命乞いとか冗談が通じて何となく助けてもらえそうな雰囲気に持ち込めます。死臭漂う拷問室で殺人鬼と被害者がまさかの酒盛り。この辺の展開もなかなか他では見られないユニークさがあります。


するとミックは、オーストラリアの歴史クイズを10問出すから5問正解できれば解放してやると言い出します。ただし間違えると指切断の刑。ミックがなぜ外国人を嫌っているのかそのクイズで何となく察せられるんですが、改めて聞くとオーストラリアの歴史なんてロクなもんじゃないですね。イギリスは原住民を虐殺するわ、流刑地として囚人を送り込んでくるわ。そのうえ実話ベースとか言ってこんな映画を作っていいんでしょうか? オーストラリアに対する著しいイメージダウンにしかなってないと思うんですが。



まあそれはともかく、ミックの自宅地下の描写がまた凄い。一体どれだけの旅行者を連れ込んではいたぶり殺していたのか、どこもかしこも無残な死体だらけ。一部瀕死で生き残っている人もいるのが実にタチが悪い。あれほどおぞましい空気が漂ってる殺人鬼の本拠地というのもなかなかないですよ。画面の向こうから死臭が匂ってきそう。乾燥地帯なので汁気が少ないのが唯一の救いか。「悪魔のいけにえ」を見た時もテキサスには行かない方が良さそうだなあと思ったもんですが、本作もオーストラリアの田舎には絶対近づきたくないなと思わせる負のパワーがありました。


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