「グレタ GRETA」 感想(ネタバレあり) その親切が命取り

概要

原題:GRETA
製作:2019年アメリカ
発売:TCエンタテインメント
監督:ニール・ジョーダン
出演:イザベル・ユペール/クロエ・グレース・モレッツ/マイカ・モンロー/スティーヴン・レイ/コルム・フィオール

レストランで働くフランシスは、ある日地下鉄で忘れ物のバッグを拾う。持ち主のグレタという年配の女性に直接届けに行き、年の離れた友人となる。孤独なグレタに失った母を重ね、楽しく交流するフランシス。しかしある時、グレタに潜む異常性に気づいてしまう。慌ててグレタから離れようとするフランシスだったが時すでに遅く、友人のエリカと共に恐ろしいサイコストーカー地獄へと引きずり込まれていく…

予告編


感想




頭のいかれたおばさんが若い女性に執着しストーキングするというちょっと珍しいパターンのサイコスリラー。


主人公フランシスは地下鉄で拾ったバッグの持ち主が中年女性であると知り、駅にではなく自分で直接届けに行く。

これは素晴らしい善行ですね。日本でもそこまでやる人はあまりいないだろうに、アメリカではなおさらではないでしょうか。そこから始まる出会いが彼女に思わぬ幸運をもたらすのであった…みたいな話だったらいいんですが、逆に恐怖のどん底に突き落とされる羽目になるので本作を観た人が善行をためらうようになるのではないかと心配になります。まあ駅に届ければいいだけなんですが。

で、バッグの持ち主のグレタは都会の片隅でひっそり孤独に暮らす未亡人。ちょうど母親を亡くしたばかりのフランシスはグレタに亡き母を重ね、一緒に犬を選びに行ったり料理を習ってみたりと仲良くなっていく。

これについて同居している友人のエリカには「キモイ、あんた変、そんなのやめた方がいい」と言われてしまい、しかも結果的にはそれが正しいアドバイスだったわけですが、相手がマトモな人なら別にいいですよね。まあマトモかどうか判断する前に距離を詰めすぎたのが悪いんですが、上品な中年女性なら人畜無害だろうという思い込みは確かにしてしまいそう。

だが、棚の中に同じバッグを大量に並べてあるのを発見してから事態は急転。あれは落とし物などではなく、親切な人をおびき寄せるための撒き餌だったのだ。

ここまでわずか20分ほどでやってくれるので相当テンポは早い。もっとじっくりグレタの善良な面を見せてフランシスと交流を深めていった方が後々の衝撃が大きくなっていいんじゃないかとも思いましたが、意外と早くグレタがサイコストーカー化してきます。

そのグレタ役のイザベル・ユペールという人の演技力がやたら高く、華奢で弱そうなおばさんのくせに大変恐ろしい。フランシスの勤め先に現れて暴れるだけならまだしも、友人のエリカの方にまでガムのように粘着するのだからたまらない。

私も以前、ある女性に粘着するサイコストーカーに関わってしまった経験がありまして、そういう人物の一見善良な素振りをしている時の顔とそうでない時の刺すような視線の落差に得体の知れない恐怖を感じたことがあります。そいつも華奢な年配者でしたが、殴れば倒せるとかそういう問題じゃないんですよね。

なので、本作で描かれている恐怖はかなり身近なものとしてリアルに迫ってきます。グレタはサイコとはいえただの非力なおばさんでそこまで現実離れした凶行に及んだりはしないのでなおさらそう感じました。


(以下ネタバレ)


こういう場合警察はあまり頼りにならない、というのもリアルといえばまあリアルなんですが、一番肝心なところで警察ではなく探偵の方に行ってしまったのはさすがにどうかと思いましたね。でも、最後の最後に助けに来てくれたのは警察でも探偵でもなく友人のエリカだったというのが非常に熱い。演じているのがマイカ・モンローなのでただの脇役ではないかもしれないとは思ってましたが、まさかあそこまで有能だとは驚いた。あれはかっこよすぎる。マイカ・モンローに対する好感度まで爆上がりの美味しい役でした。


サイコストーカーおばさんと言えば「ミザリー」ですが、グレタの凶行はあれの一歩手前で抑えてあるのでまあぬるいと言えばぬるい。けど、「本当に一番怖いのは人間」系のサイコホラーはこのぐらいのさじ加減でちょうどいいかなと思います。

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