「恐怖ノ黒電波」 感想 国力は運命だ

概要

原題:BINA (TH E ANTENNA)

製作:2019年トルコ

発売:キングレコード

監督:オルチュン・ベフラム

出演:イーサン・オナル、ギュル・アリヂ、レベント・ウンサル、ウシュル・ゼイネップ


ディストピアと化したトルコ。政府の主導で、古い高層アパートのテレビアンテナが新設される。

政府のプロパガンダをすべての住人に提供するためだ。

しかし作業をしたエンジニアが不可解な死を遂げ、裏に隠された邪悪な意図が浮かび上がる。

(↑キングレコードHPより)


予告編

感想



ディストピアと化したトルコのとあるマンションで奇怪な黒い電波、黒い汁に苦しめられる住民を描いたホラー。



トルコ製ホラーというのが物珍しくてレンタルしましたが、これは娯楽映画ではなかったですね。現トルコ政権の恐ろしさを訴える社会派ホラーといった趣き。しかし社会風刺として見るには火の玉ストレートすぎて、もっと切実にトルコからのSOSを受信したような気分になりました。本作でマンションの住人たちを苦しめるのは新しく設置されたアンテナから出てくる黒い電波(というか黒い汁)で、一応そういう怪奇現象に置き換えているにしてもあまりに直接的すぎて、どう見てもあれは政府が発するプロパガンダとしか受け取れない。



今のトルコはエルドアン大統領による独裁政治、反体制派の粛清、ネット検閲といったリアルディストピア化が進んでいるようです。とはいえそんな奴でもいちおう民衆が選挙で当選させているわけですから、実際のところはどうなのか日本人の私には分かりません。が、本作のような映画が作られているところを見ると言論の自由を統制しプロパガンダで民衆を洗脳して長期政権を確立しているのではないかと思えてきます。形式は民主主義でも実態はそうではない。どこも同一勢力による長期政権はろくなことにならない気がします。しかし民衆は安定を求めてそれを許してしまうのか。



そういう監視社会の中でこういう映画を作り上げ、外国にバラまいて自国の嘆くべき現状を訴えるのはかなり大変なことだったのではないでしょうか。こういう切実なメッセージが込められた映画はなるべく多くの人に見てもらいたいものですが、正直ひとつのホラー映画として観るとあまり面白いとは言えないのがつらいところ。というか画面に映し出されるのがひたすら「黒い電波(独裁政権)によって苦しむ民衆」なので楽しいわけがないんですよね。独特な美術による恐怖演出はアート映画的な楽しみ方もできるかもしれませんが、全体的にどんよりしすぎで気が滅入ってきます。しかもそれが1時間55分みっちりあるし。



まあ、かといって「独裁政治に苦しむ民衆を見てガハハと楽しむ」なんて映画になってしまったらそれはもう独裁者側の目線なのでおかしなことになってしまうんですけどね。どう転んでも楽しくは撮れない題材です。せめて主人公が鬱屈した現状に一矢報いて希望を持てるようなラストにしてくれればその辺の印象も変わってくるのですが。今のトルコではそういう希望すら全く持てない暗黒政治なんでしょうか。

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