「カット/オフ」 感想 人は誰でも検視官になれる

概要

原題:Abgeschnitten
製作:2018年ドイツ
発売:ハピネット
監督:クリスティアン・アルヴァルト
出演:モーリッツ・ブライブトロイ/ヤスナ・フリッツィー・バウアー/ラース・アイディンガー/ファーリ・オーゲン・ヤルディム/ウルス・ユッカー

検視官のポールが公園のゴミ箱から発見された遺体を解剖していると、頭部にカプセルを発見する。その中に入っていた紙片には、ポールの娘ハンナの名と電話番号が記されていた。ハンナに電話を掛けると何者かに誘拐監禁されていると言う。その後再度電話をすると、今度はリンダという女性が出て、電話の持ち主の男は死んでいると話す。その男に何らかの手がかりがあると考えたポールは、リンダに解剖を依頼するのだが。

予告編




感想


別に猟奇殺人がテーマではないにも関わらず、やたら猟奇的な雰囲気が漂っていて緊張感たっぷりの実にドイツらしいサイコサスペンス。


「サイコ野郎に誘拐された娘を探して回る父親」という構図はよくあるものですが、その父親が検視官なので遺体解剖シーンが異常に盛り沢山。遺体を発見するたびにサクサク解剖しまくります。中にはわざわざ手がかりを飲み込んでから自殺するめんどくさい奴まで登場する始末。そんなに解剖されたいか?


しかも本作はただ検視官が解剖するだけではなく「シロウト遠隔解剖」とでも言うべき特異な見せ場があり、これが実に…おぞましい。自分が解剖してるような気分が味わえる。ここは事件の真相とか犯人の正体がどうでもよくなるぐらいのインパクトがあります。
どういうことかと言うと、手がかりとなる遺体が嵐で閉ざされた孤島で発見されるのですが、ポールはそこへ行く術がない。そこでたまたまその遺体を発見してくれたリンダという女性に解剖してくれるよう電話で頼むのです。こんな無茶振り、初めて見ました。本作はまずこのシチュエーションありきで組み立てられた話なんじゃないかと思います。


しかし、ただの一般人にいきなり遺体解剖など出来るものでしょうか?
少なくとも私には不可能です。いや、大抵の人にとって絶対に不可能でしょう。
ポールはそこを何とか解剖してもらえるように頼まなくてはなりません。一体どう持ち掛ければそんなことが出来るのか。

「リンダ 君の仕事は?」
「マンガ家よ」
「手先が器用ってことかな?」

いや~、実に無理がありますよこれは。遺体解剖に必要なのは器用さよりもまずグロ耐性でしょう。そんなの一朝一夕に身に着くものではない。ドイツ製スプラッター映画を少なくとも7~8本ぐらいは観ておく必要があるでしょう。しかしリンダはストーカーの幻影を忘れたいからとか何とか言って解剖に同意してくれます。リンダがストーカーに追われているエピソードは何のためにあったのか疑問でしたが、このためだったんですね。本作を構成する要素は全てこの遠隔解剖を実現するためにあるようなものです。


とはいえいきなりザクザク切り刻むわけではなく、まずは遺体の服を脱がすところから入り、陰部をチェックさせたり、肛門の状態をチェックさせたり…と少しずつじっくりと生理的嫌悪感を催させてきます。犯人とか事件の意図とは無関係なシーンなのに、明らかに最も重点が置かれています。何が何でも「何も知らない女の子に遺体解剖させたい!!」という病んでるドイツ人の歪んだ欲望が強く感じられる素晴らしい見せ場です。「性犯罪者に正義の裁きを下す」というストーリーの表層はコレを覆い隠すためのものに違いない。


ドイツ人の負の面ばかりではなくいいところも見せなければ、と思ったのか分かりませんが、ポールが嵐の孤島へ行くためにメルセデス・ベンツが思わぬ活躍を見せます。610馬力のすごいやつ。しかしいくらパワーがあっても車は車。飛ぶことはできない。と思わせてからのあのサービス活用法はすごい。ベンツを新車で購入すればあんなにも至れり尽くせりなサービスを受けられるんですね。それをインゴルフとかいう変なキャラを使ってさらりとサスペンスに組み込んでくるんだからほんとに感心します。インゴルフっていう名前なんだからゴルフに乗れよ、って思ってたけどベンツじゃないとダメだったわけですね。


過程がぶっ飛んでただけに事件の真相そのものは拍子抜けでしたが、二重に騙しの仕掛けが施されていたりととにかく凝ってて盛り沢山なので満足度は非常に高い作品でした。




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